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第80回 悪性リンパ腫の分類



悪性リンパ腫の分類

今回は悪性リンパ腫の分類法の概要についての話です。
大前提として、悪性リンパ腫はまずホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大別されます。
ホジキンリンパ腫は動物では稀な疾患であり、臨床の先生が遭遇する一般的なリンパ腫は非ホジキンリンパ腫です。
リンパ腫の細分類はこの非ホジキンリンパ腫に対して行われます。
今回はホジキンリンパ腫に関しては省略させて頂き、非ホジキンリンパ腫の分類をご紹介します。

◎悪性リンパ腫の3つの分類法
非ホジキンリンパ腫の分類は、一般的に以下の3種類の方式が挙げられます(いずれの分類でもあまりに末梢的と考えられるサブタイプに関しては省略しています)

?@National Cancer Institute Working Fomulation(NCL-WF)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Low grade |Diffuse Small Lymphocytic
|Follicular Predominantly Small Cleaved cell
       |Follicular Mixed, Small Cleaved and Large cell
Intermediate |Follicular Predominantly Large cell
grade |Diffuse Small Cleaved cell
|Diffuse Mixed, Small and Large cell
|Diffuse Large cell
High grade |Large cell, Immunoblastic
|Lymphoblastic
|Small non-cleaved cell
miscellaneous|Composite
(*1) |Mycosis fungoides
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アメリカで一般的に用いられる分類法であり、通常はWFと表記される。
グレード評価の方式として低グレード・中間グレード・高グレード・Miscellaneous(雑多な)がある。
T cell, B cell 分類の概念は無い。
(*1)髄外性骨髄腫などの項目も含まれるが、ここでは省略する。

?AUpdated Kiel classification(新Kiel分類)
|B               T
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Low grade |Lymphocytic  Lymphocytic
|Lymphoplasmacytic/-cytoid     Small cell, cerebriform
       |Plasmacytic (Mycosis fungoides, Sezary's syndrome)
      |Centroblastic-centrocytic     Lymphoepithelioid
|Centrocytic(mantle cell)     Angioimmunoblastic
|Monocytoid             T-zone Lymphoma
|(including Marginal zone cell)  Pleomorphic, Small cell
High grade |Centroblastic Pleomorphic, Medium-sized and Large cell
|Immunoblastic Immunoblastic
|Burkitt's Lymphoma
       |Large cell Anaplastic Large cell Anaplastic
|Lymphoblastic Lymphoblastic
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ヨーロッパで一般的に用いられる分類法。新キール分類、改訂キール分類などと呼ばれる。
グレード評価の方式として低グレード・高グレードがある(その他にRare typeのカテゴリもあるが、これに含まれる分類名は表記されていない)。
T cell, B cell 分類がある。

?BWorld Health Organization classification(WHO分類)(*2)
B                 T
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Precursor B-cell lymphoblastic Precursor T-cell lymphoblastic
leukemia/lymphoma leukemia/lymphoma
B-cell chronic lymphocytic leukemia
/lymphoma
B-cell prolymphocytic leukemia T-cell prolymphocytic leukemia
Lymphoplasmacytic        T-cell large granular lymphocytic leukemia
Mantle cell      Aggressive natural killer cell leukemia
Follicular              T/natural killer cell lymphoma,
Cuteneous follicle centar  nasal and nasal-type (angiocentric)
Marginal zone B-cell lymphoma Mycosis fungoides/Sezary's syndrome
of mucosa-associated lymphoid tissue Pagetoid reticulosis
Nodal marginal zone Angioimmunoblastic T-cell
Extranodal marginal zone Peripheral T-cell
Splenic marginal zone B-cell Adult T-cell leukemia/lymphoma
Burkitt's Lymphoma Anaplastic large-cell
(Primary systemic/cutaneous type)
                    Enteropathy-type T-cell
Hepatosplenic T-cell
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Revised European-American Classification of Lymphoid Neoplasms(いわゆるREAL分類)を基に作定された分類法。そのためREAL/WHO分類と併記する場合もある。
グレード評価はされていない。
T cell, B cell 分類がある。
(*2)Lymphoplasmacytic lymphomaなどの“lymphoma”に関しては省略する。

◎3つの分類法の特徴
当然のことながら、これらの分類は三者三様の特徴を有しています。
以下に個人的な意見も含めそれぞれの特徴をご紹介します。

?@WF
・形態的な観点(細胞形態や増殖形態)を重視した分類のため、HE標本上での分類が比較的容易。
・グレード評価が低・中・高の3段階あり、様々なタイプのリンパ腫においてより挙動と一致したグレード評価を行いやすい(さらに、それらに当てはまらないMiscellaneousという概念も用意されている)。
・腫瘍細胞の由来に関しての評価がないため、本質的な概念に関しては曖昧である。(例としてT cellであってもB cellであっても形態的に同じであれば区別していない、など)

?A新Kiel分類
・腫瘍細胞の由来(本来のリンパ系細胞との組織学的類似性)を重視した分類であり、T cell, B cellの分類によりタイプも区別されているため、腫瘍の本質を把握しやすい。
・グレード評価が低・高の2段階であるため、治療方針を決めやすい。逆に、特殊な組織像の腫瘍に関してはグレード評価と実際の挙動に差異が生じる可能性も考えられる。
・形態的な観点からの分類がやや難しい場合もある。特にT cell, B cellの分類に関しては免疫染色が必要な場合が多い。

?BWHO分類
・腫瘍細胞の形態、由来、免疫学的特徴などの観点から分類しており、NK細胞などのより細かな項目も存在するため現時点で最も本質的な腫瘍定義による分類法と言える。
・3つの分類法の中で最も項目が多く、様々なリンパ腫に対応でき、個別の詳細な情報を得やすい。
・3つの分類法の中でも形態的な観点からの分類が最も難しく、一般的な抗体でない特殊な免疫染色を行わなければ鑑別が困難な場合も多い。


これら分類法によって異なる特徴は、時に臨床獣医師および病理診断医に様々な混乱をもたらすことがあります。
混乱を生じさせやすい例として上皮向性T cellリンパ腫が挙げられます。実際のところ悪性リンパ腫の分類に関するご質問として最も多く弊社に寄せられるのが上皮向性T cellリンパ腫に対するご質問です。

代表的なものには菌状息肉腫(Mycosis fungoides = MF)などを含む皮膚上皮向性T cellリンパ腫(CETL)があります。
CETLは上皮向性という非常に特徴的な所見を示す皮膚型リンパ腫であり、いずれの分類法においても(若干詳細がことなるものの)項目を設けています。
しかしながらグレード評価に関してWFではMiscellaneous、新Kiel分類では低グレードとされており、WHO分類ではグレードの概念がないため個別に挙動が文章化されています。
以前のパソラボ情報でご紹介した通り、MFは紅斑期〜腫瘤期(場合により内臓浸潤期)へと移行する独特な病期を有する腫瘍です。イヌではMFの平均生存期間の報告は数ヶ月〜2年と幅がありますが、一般的に予後は悪いとされています。
発見時の病期により生存期間が大きく異なる可能性はあると思われます。イヌでは毛によって紅斑期の病変が把握し難い可能性があるとされており、実際に弊社でも腫瘤期に移行した病変を観察する場合が少なくありません。では、腫瘤期(もしくは内臓浸潤期)のMFを診断する際に低グレードと評価することは妥当と言えるでしょうか?
またヒトではCETLのサブタイプによって5年生存率が大幅に変わりますが(MF;89-93%、SS;33%)、新Kiel分類ではMFもSSも低グレードとされています。

またネコに多く発生する腸管の上皮向性T cellリンパ腫も、分類法による混乱を招きやすい腫瘍です。
腸管原発の上皮向性を示すT cellリンパ腫はREAL/WHO分類では(Enteropathy-associated(type))Intestinal T cell Lymphoma(EATCL or ITCL)として分類されていますが、WFならびに新Kiel分類では該当する分類はありません。
細胞形態的な観点からすれば現時点での動物のWHO分類ではsmall cellとされていますが、必ずしもsmall cellとの表現が適切でない腫瘍もあります。
ヒトのこの疾患では「正常の小リンパ球よりわずかに大型のもの、免疫芽球様のもの、bizarreな核や多核のものなど多形性を示す」と記載されています。またTumors in Domestic Animals 第4版(Meuten)の表においても、ITCLに(形態的には)該当するWF分類としてDiffuse Mixed Small and Large Cell(DMCL)やLarge Cell Immunoblastic(LCIBL)などを挙げており、実際に弊社でも大型核などを有するITCLを少なからず経験しています。
DMCLは中間グレード、LCIBLは高グレードに分類される腫瘍ですが、挙動としてはWHO分類に記載されているように「slowly progressive」です。これに関しては、実際に経過を追った経験のある臨床の先生はよく把握されていることと思います。

このように、いくつかのリンパ腫に関しては用いる分類法により“重大な誤解”を招く恐れがあると言わざるを得ません。
そのため弊社では、グレード評価のある分類法を用いると実際の挙動や対処法に不具合が生じる恐れのあるリンパ腫に関しては、低・高グレードなどの表記はしておりません。
これはグレード評価をすることの妥当性や用いる分類法を考慮した結果ですので、ご理解頂ければ幸いです。

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